現場で感じた“清潔を守る”ことの難しさと現実〜介護の現場から見える、技術・時間・心の課題〜

介護職員がベッド上の高齢者に清潔ケアを行う、穏やかな現場の様子。

 「清潔を保つことは大切」――それは誰もがわかっていること。
けれど、介護の現場に立つと、その“当たり前”がどれほど難しいかを痛感します。

時間が限られ、人手も足りず、そして何より、支える人・支えられる人、
どちらの心にも「ためらい」や「恥ずかしさ」がある。

それでも私たちは、できる限り清潔を整えようと手を動かしています。
なぜなら、その行為は単なる衛生ではなく、人の尊厳を守る支えだからです。

この記事では、現場で感じる“清潔を守ることの難しさ”を通して、
「いま自分の体を整えておくこと」がどれほど未来をやさしくするかを考えていきます。

💡振り返り

これまでの記事で触れてきた“清潔を整える準備”を、
今回は介護現場の視点から掘り下げてみます。
👉 「40代男性へ。いま備える意味」

在宅介護の室内で、日本人男性介護士が背中を向け、ベッドに横たわる高齢男性を静かに見守っている。介護士は明るいポロシャツを着て、手にタオルとソープボトルを持ち、柔らかな自然光が差し込む淡いティールトーンの部屋に、穏やかで誠実な雰囲気が漂っている。

私が働いている訪問介護の現場では、排泄介助が必要な利用者さんの多くは、1日3回程度のおむつ交換や清拭を行うケースが一般的です。
週に数回ではなく、毎日。しかも1回あたり20〜30分という限られた時間の中で行います。

この時間内でやるべきことは、排泄介助だけではありません。
更衣・清拭・口腔ケアなど、生活全体のサポートが組み合わさることも多い。
たとえば「朝の介助」では、起床・排泄・洗顔・着替え・整容といった流れを、30分以内で終わらせなければなりません。

そこに、現場特有の“予測できない要素”が加わります。

  • 関節が拘縮していて、腕や脚が動かしにくい
  • 失禁でシーツまで濡れている
  • 大量の便が出てしまって時間がかかる
  • 服の素材が伸びにくく、着替えに手間取る
  • 体重が重く、1人で体位変換するのが難しい
  • 介助中にも再び排泄がある

こうした要素が重なると、時間的な余裕はほとんどなくなります。
「清潔に仕上げたい」と思っても、羞恥心にまで気を配れないまま、次の訪問先へ急がなければならないこともあります。

もちろん、介護職員の技術や経験によって対応の幅は広がります。
けれど、現場では常に“理想と現実のはざま”に立たされている。
私たちは、利用者さんの尊厳を守りながらも、限られた時間と条件の中で「どこまで清潔を整えられるか」に心を砕いています。

介護職員が清潔ケアの準備をしている静かな手元の様子。

「清潔を守ること」は、頭ではわかっていても、現場ではそう簡単にはいきません。
たとえば、排泄があったとき——。
おむつやリハビリパンツを着用していれば漏れないかもしれませんが、排泄直後にすぐ交換できるとは限りません

訪問介護では、訪問スケジュールが決まっており、すぐに駆けつけられないこともあります。
その間に体温や湿度が上がり、皮膚が蒸れてかぶれてしまう。
場合によっては感染症のリスクが高まることもあります。
臭いが残り、利用者さんが「汚れているのでは」と不安を口にされることもあります。

排泄物が毛に絡んでしまえば、洗浄や清拭をしても完全には落ちないことがあります。
タオルで拭うたびに皮膚に負担がかかり、
「きれいにしてあげたい」と思っても、肌トラブルを避けるために
“ある程度で切り上げる”判断をせざるを得ないこともあります。

また、臭いや汚れは「洗えば済む」ものではありません。
毛や皮膚の状態、下着や寝具の素材、環境の湿度など、
さまざまな条件が清潔の保ちやすさを左右します。
毛が多いほど汚れが残りやすく、においが取れにくい。
それが次第に、“清潔を保ちにくい身体環境”を作っていきます。

そして何よりつらいのは、介助を受ける方の心の面です。
「恥ずかしい」「申し訳ない」という気持ちが強い方ほど、
介助のタイミングを伝えづらくなり、結果的に清潔が後回しになる。
そのたびに、私たち介護職も「もっと適切に対処できていれば」と感じます。

現場では、時間にも、心にも、いつも“あと少しの余裕”が足りません。
だからこそ、「清潔を守る」ことの難しさを、
私は単なる衛生の問題ではなく、“人の尊厳を支える重みのある仕事”だと感じています。

そしてその中で痛感するのは、
“毛があるか・ないか”という小さな違いが、現場にとっては大きな差になるということ。
毛が少ないことで、汚れが落ちやすく、臭いが残りにくい。
肌の状態も安定し、清潔ケアにかける時間や負担が軽くなる。
それは、介助する側・される側の双方にとって、心の余裕と尊厳を守るための支えになります。

ベッドに腰かけた高齢の男性が、手のひらを上げて介護士を制するような仕草をしている。介護士は背中が見える位置に立ち、静かに向き合っている。淡いティールトーンの室内に自然光が差し込み、穏やかで誠実な雰囲気が漂う在宅介護の一場面。

清潔ケアの難しさには、技術や時間だけでなく、心の壁もあります。
介助する側・される側、それぞれの立場に生まれる“ためらい”が、思っている以上に大きいのです。

現場にいて感じるのは、排泄介助を拒否されるのは男性の方が多いということ。
「自分のことは自分でやる」「妻にしかやらせない」「誰にも触らせない」——。
そう言われる方は珍しくありません。
中には、「妻ではきれいにできないけれど、それでも他人には頼みたくない」という葛藤を抱える方もおられます。

屈辱感や羞恥心、そして“男としての自尊心”。
それらが混ざり合って、「手を借りること」自体を受け入れにくくしているのだと思います。
この感情は、頭で理解しても、簡単にはほぐれません。

そこまで強い拒否でなくても、遠慮される方は多くいます。
「手を煩わせたくない」「家族にも迷惑をかけたくない」——。
そうして介助を控え、入浴時などに“少し臭いが残っている”と感じることがあります。

こちらから介助を申し出ても、「大丈夫」「自分でできる」と断られる。
無理に踏み込めば、かえって尊厳を傷つけることになりかねません。
結果として、本人の意思を尊重することを優先し、十分な清潔ケアが行えないケースもあります。

それは介護者として、いつも胸の奥に残る“もどかしさ”です。
けれど、「尊厳を守る」とは、“その人の選択を尊重すること”でもあります。
たとえそれが、清潔を少し犠牲にする選択だったとしても——。

人によっては、“自分でできる”という気持ちが生きる力の源になっていることもあります。
その小さな自立の感覚が、その人にとっての誇りであり、明日を生きる糧になっている。
そう感じる場面を、私は何度も見てきました。

だからこそ、私たち介護職は、
“清潔を整える”という目的のために心まで踏み込みすぎないよう、
常に「尊厳」と「清潔」のあいだのバランスを探しています。
それは、マニュアルでは決して学べない、現場でしかわからない難しさです。

しんのすけ
しんのすけ

清潔を守ることは、単に汚れを落とすことではなく、
その人の「尊厳」をどう守るかという問いでもあります。

清潔ケアのために白いタオルを丁寧に畳む介護職員の手元。淡いグレーとティールのやさしい光に包まれた場面。

清潔を守ることには、技術や時間だけでなく、心の壁もあります。
その現実を知ったうえで、ではどうすれば少しでも「清潔を保ちやすい毎日」をつくれるのか——。
私が現場で感じてきた、小さな工夫と整え方をお伝えしたいと思います。

清潔ケアの基本は、“一度に完璧にする”ことではなく、少しずつ整えることです。
1日の中で、ほんの数分でも「顔を拭く」「手を洗う」「肌を保湿する」など、
小さな行為を積み重ねることが、肌を守り、清潔を保ついちばんの近道になります。

寝たきりの方や関節拘縮のある方は、体の一部が湿りやすく、摩擦も起きやすい。
だからこそ、観察とひと手間が大切です。
たとえば——

  • 排泄後は、ぬるま湯で軽く洗ってから保湿剤を塗る
  • 肌着や寝具を吸湿性の高い素材に変える
  • 毛が多い部位は汚れが溜まりやすいと意識してケアする

どれも特別なことではありません。
でも、その「少しの整え」が、介助する側・される側、どちらにも心のゆとりを生み出します。

介護の現場にいると、毛がある・ないという小さな違いが、ケアのしやすさに大きく影響することを感じます。
毛が少ないと汚れが落ちやすく、においが残りにくくなり、肌トラブルも減ります。

清潔ケアの観点から見れば、“介護脱毛”は美容ではなく、
未来の自分と介助者への思いやりを形にした行為です。
毛の少ない状態は、介助される側にとっても「恥ずかしさが減る」ことがあり、
つまり、“毛を整えること”は、“尊厳を整えること”にもつながっています。

清潔ケアは、決して介護の現場だけの話ではありません。
家族を支える場面でも、自分の生活の中でも、
「清潔を保つ」ことは人と人とのやさしい関わりのひとつです。

 清潔を整えることは、自分を思いやること。
 そして、あなたを支えてくれる誰かへの、静かなやさしさです。

その準備を、今から少しずつ始めておく——
それが、「脱毛=生活ケア」という考え方の実践なのだと思います。

1200×630の比率で画像を作成してください やわらかな自然光が差し込む明るい室内。 白や淡いグレーの寝具が整ったベッドと、そばのテーブルには畳まれたタオルや小さな植物。 カーテンやクッションなどにティール(#4EA8A8)の差し色を取り入れ、清潔と希望を象徴。 カラーパレット:ネイビー(#305F72)、ティール(#4EA8A8)、淡グレー(#F8F9FA)、自然光。 穏やかで dignified(尊厳のある)雰囲気で、「未来をやさしくする」空気感を表現。

清潔を守ることは、理想論ではなく、日々の現場の積み重ねの中にあります。
思うように時間が取れないときも、迷いながら手を動かすときも、
その一つひとつの行為の根っこには——
「誰かを思う気持ち」があります。

毛が少ない、肌が健康である、体を整えておく。
それは見た目のことではなく、支える人の負担を軽くし、支えられる人の尊厳を守るための準備です。

いま自分の体を整えることは、
未来の介助者への“ありがとう”を先に渡すこと。
そして、清潔を通して「人と人がやさしくつながる」未来をつくること。

しんのすけ
しんのすけ

清潔を守ることは、誰かを思うこと。
そして、清潔を整えることは——未来をやさしくすること。


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